めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

11月のリハーサルを終え、遂にホテル フィオーレのオープニングセレモニーの日が翌日に迫る。

花穂たち3人は、前日からホテルに泊まり込んで準備に追われた。

既にプレオープンして宿泊しているゲストがいる為、ロビーの演出は深夜に作業することになっていた。

静まり返った真新しいロビーで、大地と大森が慎重に天井裏の高所作業を行う。

そのあと花穂が大理石のピカピカのステージに、花びらを敷き詰めていった。

「よし、じゃあテストするぞ」

大地の声掛けで、3人はステージを降りて上を見上げる。

まずはステージ中央にホテル フィオーレのロゴを投影する。

サラサラと文字を描くように筆記体のロゴが現れ、キラキラと細かな輝きが周りを彩った。

しばらく静止したあと、輝きながら文字が消えていく。

そしてまた同じように文字が描かれ始めた。

「ムーブメントの間隔、1分でいいかな?」

大森が言い、大地と花穂は、うーんと考え込む。

「30秒でいいかも。1分だと、動きがあることに気づかれずに立ち去られるかもしれない」
「そうですね。かと言って15秒とかだと、写真撮影するのに支障が出そうです。30秒がベストだと私も思います」

オッケーと言って、早速大森がパソコンでプログラミングを変えた。

「じゃあ次、花びらを点灯するよ」
「はい、お願いします」

再び大森がパソコンを操作し、ステージに敷き詰められた花びらが、綺麗に色づいた。

「おおー、華やか! いいな、これ」
「ああ、光り方にバリエーションがあるのがいい」

大森と大地が満足気に頷く。

フチが光るもの、表面が光るもの、そして中から淡く光るものと、花びらは色んな表情を見せる。

水色やピンク、白やオレンジなど、カラフルに様々な色合いが浮かび上がり、見守っていた数少ないホテル職員からも感嘆のため息がもれた。

「よし。じゃあフラワーシャワーも光らせて、ムーブメントを加えるぞ」

大地が上を見上げ、大森がパソコンを操作した。

シャワーのように頭上に広がる花びらのカーテンが、一斉に光り出す。

見とれていると、花びらはマイクロファンのかすかな風を受けてふわりと揺れ、回転モーターでゆっくりと回った。

「わあ、綺麗……。風に揺れて生きてるみたい」

うっとり呟く女性スタッフの声が聞こえてきて、花穂は嬉しくなる。

「青山、カメラチェックしよう。動画と静止画の両方を撮影してくれ」
「はい」

花穂はスマートフォンで静止画を何枚か、そして動画でロゴやフラワーシャワーの動きを撮影した。

「花びらの動き、もう少し緩やかにした方がいいな。あとロゴはもっとシャープに投影して、色味もゴールドを多めに」
「了解」

大森がカタカタと手早くパソコンを操作して微調整する。

「よし。朝イチで須崎さんのチェックを受けよう。そのあとバンケットホールに取りかかる。今夜はもう遅い。早く寝て明日に備えよう」

3人は用意された客室に戻った。