11月に入り、ホテル フィオーレでのリハーサルを間近に控えた週末。
花穂は久しぶりに織江とランチの約束をしていた。
「花穂!」
「織江さん!」
待ち合わせしたカフェで、二人は笑顔で抱き合う。
「久しぶりね。元気だった?」
「はい、織江さんも?」
「ええ。新しい職場もようやく慣れたかな」
店内に入ってオーダーを済ませると、すぐにおしゃべりに花を咲かせた。
「織江さんにお話ししたいことがありすぎて。なにから話せばいいのか」
「ふふっ、噂は聞いてるわよ。ホテル フィオーレのオープニングセレモニーを任されたんですってね」
「ご存知でしたか!」
「当然よ。花穂、すごくいいアイデアを出してくれたって、大地が褒めてたわよ」
「えっ、浅倉さんが?」
自分の知らないところで二人が連絡を取り合っていたなんて、と花穂は意外な気がした。
「大地、花穂のことをほんとに気にかけてたからね。大切に育てたいって思ってるんだろうな。自分みたいな想いはしてほしくないって」
「え? それって……」
花穂は言葉に詰まる。
(織江さんは知っているの? 浅倉さんがスランプに陥ったことを)
するとグラスの水をひとくち飲んでから、織江が顔を上げた。
「私の彼ね、社内では一番の成績なの。でも他の企業でどうしても勝てない相手がいた。それが大地だったの」
「えっ……」
織江の口から語られる大地の相手の話に、花穂は思わず身を固くする。
「何度戦ってもコンペで負ける。だけど、いつも清々しかったんだって。大地のプランニングは、惚れ惚れするほど素晴らしかったからって。ある時、遂にコンペで大地に勝てた。だけど嬉しさよりも憤りの方が強かった。なぜならその時の大地のプランニングは、自分に酔いしれているようなものだったから。これまでずっと憧れてきた大地の良さが、まるで感じられなかった。彼ね、それが悔しかったんだって。どうして変わってしまったのかって。それで、思わず本人にも言ってしまったの。自己満足に過ぎないんじゃないですか? って」
花穂はギュッと膝の上で拳を握りしめる。
そう言われた時の大地の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうだった。
「そのことを、彼は今も後悔してる。伝えたかったことは、そんなことではなかったから。それからの大地は雰囲気も変わってしまって、近寄り難くなってしまった。だけどいつか謝りたいって。そしてコンペとは関係なく、大地らしいプランニングを見せてほしいって。そう願い続けているのよ」
話し終えた織江は、どこか寂しそうに微笑む。
花穂の胸にも切なさが込み上げてきた。
「ねえ、花穂。好きなことを仕事にするって、時に残酷なこともある。夢を掴んだからこそ、その夢を否定されたり失いそうになると、とてつもない恐怖に駆られる。私たちの世界って、そういうところなのよね。だけど、諦めたくない。だって自分が自分らしく生きていく、唯一の道だから。そう思わない?」
花穂が懸命に涙をこらえながら顔を上げると、織江はふっと笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。ひとりでは挫けそうな道でも、仲間がいてくれる。あなたにはいつだって、大地や大森がついてるわ。それに私もね。だから花穂、どんな時も自分らしく、信じた道を進むのよ?」
「……はい」
涙声で頷く花穂に、織江は手を伸ばして優しく頭をなでた。
花穂は久しぶりに織江とランチの約束をしていた。
「花穂!」
「織江さん!」
待ち合わせしたカフェで、二人は笑顔で抱き合う。
「久しぶりね。元気だった?」
「はい、織江さんも?」
「ええ。新しい職場もようやく慣れたかな」
店内に入ってオーダーを済ませると、すぐにおしゃべりに花を咲かせた。
「織江さんにお話ししたいことがありすぎて。なにから話せばいいのか」
「ふふっ、噂は聞いてるわよ。ホテル フィオーレのオープニングセレモニーを任されたんですってね」
「ご存知でしたか!」
「当然よ。花穂、すごくいいアイデアを出してくれたって、大地が褒めてたわよ」
「えっ、浅倉さんが?」
自分の知らないところで二人が連絡を取り合っていたなんて、と花穂は意外な気がした。
「大地、花穂のことをほんとに気にかけてたからね。大切に育てたいって思ってるんだろうな。自分みたいな想いはしてほしくないって」
「え? それって……」
花穂は言葉に詰まる。
(織江さんは知っているの? 浅倉さんがスランプに陥ったことを)
するとグラスの水をひとくち飲んでから、織江が顔を上げた。
「私の彼ね、社内では一番の成績なの。でも他の企業でどうしても勝てない相手がいた。それが大地だったの」
「えっ……」
織江の口から語られる大地の相手の話に、花穂は思わず身を固くする。
「何度戦ってもコンペで負ける。だけど、いつも清々しかったんだって。大地のプランニングは、惚れ惚れするほど素晴らしかったからって。ある時、遂にコンペで大地に勝てた。だけど嬉しさよりも憤りの方が強かった。なぜならその時の大地のプランニングは、自分に酔いしれているようなものだったから。これまでずっと憧れてきた大地の良さが、まるで感じられなかった。彼ね、それが悔しかったんだって。どうして変わってしまったのかって。それで、思わず本人にも言ってしまったの。自己満足に過ぎないんじゃないですか? って」
花穂はギュッと膝の上で拳を握りしめる。
そう言われた時の大地の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうだった。
「そのことを、彼は今も後悔してる。伝えたかったことは、そんなことではなかったから。それからの大地は雰囲気も変わってしまって、近寄り難くなってしまった。だけどいつか謝りたいって。そしてコンペとは関係なく、大地らしいプランニングを見せてほしいって。そう願い続けているのよ」
話し終えた織江は、どこか寂しそうに微笑む。
花穂の胸にも切なさが込み上げてきた。
「ねえ、花穂。好きなことを仕事にするって、時に残酷なこともある。夢を掴んだからこそ、その夢を否定されたり失いそうになると、とてつもない恐怖に駆られる。私たちの世界って、そういうところなのよね。だけど、諦めたくない。だって自分が自分らしく生きていく、唯一の道だから。そう思わない?」
花穂が懸命に涙をこらえながら顔を上げると、織江はふっと笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。ひとりでは挫けそうな道でも、仲間がいてくれる。あなたにはいつだって、大地や大森がついてるわ。それに私もね。だから花穂、どんな時も自分らしく、信じた道を進むのよ?」
「……はい」
涙声で頷く花穂に、織江は手を伸ばして優しく頭をなでた。



