気の向くままに大きな公園通りを歩いていると、イチョウ並木が目に留まった。
見頃はまだだが、少しずつ黄金色に色づき始めている。
(綺麗だな。やっぱり自然に勝るものはない)
どんなに素晴らしいデザインも、自然界の美しさには太刀打ちできないのだ。
(なんだかそれって……、デザイナーの存在自体を否定された気がする。花を演出に使うのは、自然への冒涜なの?)
そう考えた途端、涙が込み上げてきた。
(違う。私はただ、花の美しさに心惹かれただけ。だからより一層その美しさを引き立てて、観る人を感動させたかった。魔法をかけるかのように、別世界を生み出したかった。だけどそれこそが、自然への冒涜なの? 咲いている花を手折ることも? 自然の美しさを讃えるなら、人の手で触れてはいけないの?)
ぽろぽろと涙がこぼれ、胸が締めつけられる。
デザイン画が描けないことよりも、もっと深く暗い闇に突き落とされた気がした。
(私がこれまでしてきたことってなに? 私が目指すものって? これから先、なにを目標にどうやって生きていけばいいの?)
負のループに捕らわれたように、どんどん自分で自分を苦しめていく。
(もう全て投げ出そうか……)
そう思った時だった。
「青山!」
ふいに大きな声で呼ばれて、花穂は顔を上げる。
大地が真剣な表情で駆け寄ってくるのが見えた。
「青山、どうした!?」
目の前まで来た大地は、息を切らしながら心配そうに花穂の顔を覗き込む。
花穂は慌てて指先で涙を拭った。
「あ、えっと。今日は久しぶりに定時で上がらせてもらいました。すみません、なにか私にご用でしたか?」
「バカ! なに言ってる」
「バカ!? ひどい。私、バカじゃないです!」
「バカだろ。なんでひとりで泣いてんだ」
そう言うと大地は花穂を両腕でギュッと抱きしめた。
「え、あの、浅倉さん?」
「言っただろ、お前はひとりじゃないって。分かってなかったのか? 簡単な日本語だぞ」
「いえ、それくらいは分かります」
「じゃあどうして俺のところに来なかった?」
「……は? なにをしに?」
「だからつまり、こうしに」
「ええ!?」
涙が完全に止まった花穂は、思い切り眉間にしわを寄せた。
「浅倉さん、あの。おっしゃる意味が……」
「うるさい、黙ってろ。俺たちは日本語が通じないんだから」
そう言うと大地はますます強く花穂を抱きしめる。
優しくポンポンと頭に手を置かれ、花穂の胸がジンとしびれた。
言葉にならない大地の温かさが、直接心に伝わってくる。
花穂はそっと大地の胸に頬を寄せて、その温もりに癒やされていた。
見頃はまだだが、少しずつ黄金色に色づき始めている。
(綺麗だな。やっぱり自然に勝るものはない)
どんなに素晴らしいデザインも、自然界の美しさには太刀打ちできないのだ。
(なんだかそれって……、デザイナーの存在自体を否定された気がする。花を演出に使うのは、自然への冒涜なの?)
そう考えた途端、涙が込み上げてきた。
(違う。私はただ、花の美しさに心惹かれただけ。だからより一層その美しさを引き立てて、観る人を感動させたかった。魔法をかけるかのように、別世界を生み出したかった。だけどそれこそが、自然への冒涜なの? 咲いている花を手折ることも? 自然の美しさを讃えるなら、人の手で触れてはいけないの?)
ぽろぽろと涙がこぼれ、胸が締めつけられる。
デザイン画が描けないことよりも、もっと深く暗い闇に突き落とされた気がした。
(私がこれまでしてきたことってなに? 私が目指すものって? これから先、なにを目標にどうやって生きていけばいいの?)
負のループに捕らわれたように、どんどん自分で自分を苦しめていく。
(もう全て投げ出そうか……)
そう思った時だった。
「青山!」
ふいに大きな声で呼ばれて、花穂は顔を上げる。
大地が真剣な表情で駆け寄ってくるのが見えた。
「青山、どうした!?」
目の前まで来た大地は、息を切らしながら心配そうに花穂の顔を覗き込む。
花穂は慌てて指先で涙を拭った。
「あ、えっと。今日は久しぶりに定時で上がらせてもらいました。すみません、なにか私にご用でしたか?」
「バカ! なに言ってる」
「バカ!? ひどい。私、バカじゃないです!」
「バカだろ。なんでひとりで泣いてんだ」
そう言うと大地は花穂を両腕でギュッと抱きしめた。
「え、あの、浅倉さん?」
「言っただろ、お前はひとりじゃないって。分かってなかったのか? 簡単な日本語だぞ」
「いえ、それくらいは分かります」
「じゃあどうして俺のところに来なかった?」
「……は? なにをしに?」
「だからつまり、こうしに」
「ええ!?」
涙が完全に止まった花穂は、思い切り眉間にしわを寄せた。
「浅倉さん、あの。おっしゃる意味が……」
「うるさい、黙ってろ。俺たちは日本語が通じないんだから」
そう言うと大地はますます強く花穂を抱きしめる。
優しくポンポンと頭に手を置かれ、花穂の胸がジンとしびれた。
言葉にならない大地の温かさが、直接心に伝わってくる。
花穂はそっと大地の胸に頬を寄せて、その温もりに癒やされていた。



