「今日は新プロジェクトの顔合わせと、大まかなスケジュールの確認ですよね?」
会議室に向かいながら、花穂は隣の織江に声をかける。
「ええ、そうね。と言っても、メンバーは私の同期なの。花穂は初めてかしら」
「はい。お名前は存じ上げてますが、お会いするのは初めてです。えっと、プロデュース部の浅倉さんと、テクニカル部の大森さんですよね?」
「そう。浅倉 大地と大森 弘和。あー、なんかややこしくなる予感がする」
顔をしかめる織江に花穂は首をかしげた。
「ややこしくなるって、どういう意味ですか?」
「んー、花穂にもすぐに分かると思う。とにかく騒々しいのよ、あの二人が顔を合わせると」
「そうなんですか? 私はお二人ともすごい方だとうかがってます。浅倉さんは営業マンとしても契約件数トップで、演出もクライアントから直々に依頼が来るほどなんですよね? 大森さんは照明や映像のセンスが良くて、技術もピカイチだって」
「まあ、それはそうなんだけどさ」
そう言うと織江はちょっと唇を尖らせる。
髪をアップでまとめ、ノーカラージャケットとタイトスカートのセットアップを着こなした織江は、スラリと背が高くて美しい。
大人っぽい雰囲気で花穂の憧れの存在だが、気取ったところがなく、いつも気さくに話しかけてくれる。
そういう意味でも、花穂は織江のような女性になりたいと思っていた。
(内面の美しさが織江さんの雰囲気にも表れてるよね。ちょっとした仕草とか、思わず目で追っちゃうほど魅力的。それにやっぱりセンスが抜群にいいし。服装とか髪型、メイクやアクセサリーなんかも)
デザイナーは、自身の見た目も含めて腕前を判断されることがある。
この人のセンスに任せてみよう、そう思える説得力が織江には溢れていた。
(私はまだまだだな。雑誌を見て流行りの服やメイクを真似するようにしてるけど、なにが自分に似合うのかも分からないし)
肩下までの髪は緩く巻くのが精いっぱい。
白のプラウスに、フレアスカートもオーソドックスな紺のひざ丈だった。
織江のようにシックで大人っぽい装いは、着こなせそうにない。
しかも織江は、クライアントによって服装を変えている。
ハイブランドのショップはゴージャスに、女性らしいフェミニンな雰囲気のショップには、優しい色合いと柔らかいシルエットの装いで訪問する。
その空間に違和感なく溶け込む織江は、クライアントに求められるデザインを、自分自身にも当てはめているようだった。
(織江さんは私の理想。いつか追いつきたいな)
そう思いながら、胸元に資料を抱えて会議室に入る。
テーブルをセッティングし、プロジェクターを立ち上げたところで、開け放してあったドアから男性が陽気に現れた。
「どうもー! 毎度おおきに大森でーす」
くるくるパーマに赤いフレームの眼鏡をかけた独特な雰囲気の大森に、はあ……と織江が盛大なため息をつく。
「大森、無駄に疲れるからやめて」
「ん? なにを?」
「しゃべるのを」
「またまたー。今日もウィットなジョークが冴えてるね、織江ちゃん」
「だから、しゃべんないでってば」
「えー? それでどうやって仕事するのさ」
「黙って機械いじってて」
「いや、俺、機械オタクじゃないから。可愛い女の子オタク」
織江はもはや、こめかみを押さえて視線をそらす。
「織江ちゃーん、心のシャッター下ろしちゃだめよ。あれ? かわい子ちゃん見ーっけ!」
大森と目が合った花穂は、挨拶しようと口を開いた。
「あの、初めまして。わたくし……」
「いい!大森には名乗らなくていいから」
織江に遮られて、花穂は戸惑う。
「でも……」
「いいのよ、大森に狙われたら大変だもの。見えないフリしてればいいから」
すると大森が割って入った。
「織江。俺、座敷わらしじゃないんだけど」
「そんな可愛いもんじゃないでしょ? 子泣きジジイならまだしも」
「ひっでえなー。個性派アイドル捕まえて、なんてこと言うんだよ」
「はあー? よく恥ずかしげもなく、そんなこと言えるわね」
止まらない二人のやり取りに、どうしようかと思っていると、ふいに入り口からよく響く低い声がした。
会議室に向かいながら、花穂は隣の織江に声をかける。
「ええ、そうね。と言っても、メンバーは私の同期なの。花穂は初めてかしら」
「はい。お名前は存じ上げてますが、お会いするのは初めてです。えっと、プロデュース部の浅倉さんと、テクニカル部の大森さんですよね?」
「そう。浅倉 大地と大森 弘和。あー、なんかややこしくなる予感がする」
顔をしかめる織江に花穂は首をかしげた。
「ややこしくなるって、どういう意味ですか?」
「んー、花穂にもすぐに分かると思う。とにかく騒々しいのよ、あの二人が顔を合わせると」
「そうなんですか? 私はお二人ともすごい方だとうかがってます。浅倉さんは営業マンとしても契約件数トップで、演出もクライアントから直々に依頼が来るほどなんですよね? 大森さんは照明や映像のセンスが良くて、技術もピカイチだって」
「まあ、それはそうなんだけどさ」
そう言うと織江はちょっと唇を尖らせる。
髪をアップでまとめ、ノーカラージャケットとタイトスカートのセットアップを着こなした織江は、スラリと背が高くて美しい。
大人っぽい雰囲気で花穂の憧れの存在だが、気取ったところがなく、いつも気さくに話しかけてくれる。
そういう意味でも、花穂は織江のような女性になりたいと思っていた。
(内面の美しさが織江さんの雰囲気にも表れてるよね。ちょっとした仕草とか、思わず目で追っちゃうほど魅力的。それにやっぱりセンスが抜群にいいし。服装とか髪型、メイクやアクセサリーなんかも)
デザイナーは、自身の見た目も含めて腕前を判断されることがある。
この人のセンスに任せてみよう、そう思える説得力が織江には溢れていた。
(私はまだまだだな。雑誌を見て流行りの服やメイクを真似するようにしてるけど、なにが自分に似合うのかも分からないし)
肩下までの髪は緩く巻くのが精いっぱい。
白のプラウスに、フレアスカートもオーソドックスな紺のひざ丈だった。
織江のようにシックで大人っぽい装いは、着こなせそうにない。
しかも織江は、クライアントによって服装を変えている。
ハイブランドのショップはゴージャスに、女性らしいフェミニンな雰囲気のショップには、優しい色合いと柔らかいシルエットの装いで訪問する。
その空間に違和感なく溶け込む織江は、クライアントに求められるデザインを、自分自身にも当てはめているようだった。
(織江さんは私の理想。いつか追いつきたいな)
そう思いながら、胸元に資料を抱えて会議室に入る。
テーブルをセッティングし、プロジェクターを立ち上げたところで、開け放してあったドアから男性が陽気に現れた。
「どうもー! 毎度おおきに大森でーす」
くるくるパーマに赤いフレームの眼鏡をかけた独特な雰囲気の大森に、はあ……と織江が盛大なため息をつく。
「大森、無駄に疲れるからやめて」
「ん? なにを?」
「しゃべるのを」
「またまたー。今日もウィットなジョークが冴えてるね、織江ちゃん」
「だから、しゃべんないでってば」
「えー? それでどうやって仕事するのさ」
「黙って機械いじってて」
「いや、俺、機械オタクじゃないから。可愛い女の子オタク」
織江はもはや、こめかみを押さえて視線をそらす。
「織江ちゃーん、心のシャッター下ろしちゃだめよ。あれ? かわい子ちゃん見ーっけ!」
大森と目が合った花穂は、挨拶しようと口を開いた。
「あの、初めまして。わたくし……」
「いい!大森には名乗らなくていいから」
織江に遮られて、花穂は戸惑う。
「でも……」
「いいのよ、大森に狙われたら大変だもの。見えないフリしてればいいから」
すると大森が割って入った。
「織江。俺、座敷わらしじゃないんだけど」
「そんな可愛いもんじゃないでしょ? 子泣きジジイならまだしも」
「ひっでえなー。個性派アイドル捕まえて、なんてこと言うんだよ」
「はあー? よく恥ずかしげもなく、そんなこと言えるわね」
止まらない二人のやり取りに、どうしようかと思っていると、ふいに入り口からよく響く低い声がした。



