ホテル フィオーレのオープニングセレモニーの準備は着々と進んでいた。
10月になると、ロビーとバンケットホールの内装の写真が先方から送られてくる。
平面図と照らし合わせて、更に詳しく演出の内容を詰めていった。
「ロビーは、ちょうど真ん中に丸いステージがある。ゆくゆくはピアノを置いてロビーコンサートを開く為のステージらしい。左右に水路があって小さな噴水も上がるそうだ。このステージをメインに演出するぞ」
「はい」
大地の言葉に頷き、花穂はデザイン画を新たに描き起こした。
「水路に架けられた橋のように、この丸いステージには誰でも階段で自由に上がれるのですよね? でしたら足元に敷き詰める花びらも、動線は空けておこうと思います。その分、真上からホテルのロゴをステージ中央に投影することは可能ですか?」
大森に尋ねると「任せなさーい!」と陽気に返される。
「よし。実際の寸法を測って、うちの社屋のアトリウムでシミュレーションしてみよう。3階から5階までの吹き抜けが、ちょうどフィオーレのロビーと同じくらいの高さになる。それぞれ必要なものを持って来てくれ。俺はビルの管理部に話して許可をもらってくる」
「分かりました」
一旦解散すると花穂はオフィスに戻り、作製した花びらを入れた大きなバッグを持ってアトリウムに向かった。
「このままだと人が歩いた時に、花びらがふわっと水路に落ちる可能性があるな」
アトリウムの床にテープで寸法通りに円を作り、実際に花びらを左右に敷き詰めてみたが、人が通ることは想定していなかった為、新たな問題点が出てきた。
「では全ての花びらに透明のテグスを通して繋ぎ、床にテグスを貼って固定しておくのはどうでしょうか?」
「いいけど、大変な作業になるぞ?」
「大丈夫です、時間はまだありますから。なるべく自然に花びらが降り積もったように繋ぎますね」
大地は返事をせず、心配そうな視線を花穂に向ける。
「浅倉さん、私のこと信用ならないって思ってますね?」
「いや、そうじゃない。青山にばかり負担がかかるんじゃないかと思って……。俺たちでも手伝えるものなのか?」
「うーん、ごめんなさい。お気持ちはありがたいですが、できればそっとしておいていただければ。私なりのこだわりがあるので」
「……分かった。だけどくれぐれも無理だけはするなよ?」
「はい」
大地と大森が5階に上がり、映像の投影や証明を調整する一方、花穂は3階のアトリウムでソファに座り、ひたすら花びらを繋ぎ合わせていった。
「花穂ちゃーん! 1回光らせてみていいー?」
5階から大森の声がして、花穂は上を見上げる。
「はい! まだ途中ですが、ひとまずざっくり敷き詰めてみますね」
「はいよー」
バランスを考えつつ、様々な色合いの花びらを無造作に重ねていく。
スカスカにならないよう、かと言ってこんもりと山にならないようにと、数も調節してふわりと飾った。
「こんな感じでどうでしょうかー?」
「オッケー! じゃあ、光らせてみるよー」
大森の声がアトリウムにこだましたあと、花びらがまるで命を吹き込まれたかのように優しく色づいた。
「わあ、綺麗ですね」
近くのテーブルでミーティングしていた女性社員たちが感嘆の声を上げる。
「花びらが淡い色合いで息づいてて、すごく幻想的」
「ほんと、うっとりしちゃう。あ! 光り方が変わった。すごい!」
「カラフルでほんとに生きてるみたい。素敵……」
その反応に、花穂は嬉しくなった。
「これ、どこで使うんですか?」
聞かれて花穂は「新しくオープンするホテル フィオーレの、ロビーインスタレーションです」と答える。
「へえ、きっと喜ばれますよ。私もチェックしておきますね」
「ありがとうございます」
するとまたしても頭上から声が響いてきた。
「花穂ちゃーん、次、花びらのシャワーも試すよ」
「はい! お願いします」
吊るし雛のように繋いだ花びらを、カーテン状に結んだアルミスティックを、大森がそっと5階の手すりから差し出す。
まるで花びらのシャワーが降り注ぐように、花穂の頭上にたくさんの花びらが色とりどりに輝いた。
「ひゃー、なんて素敵なの」
見守っていた女性社員たちは、花穂の隣にやって来て花びらを見上げる。
「はあ、ロマンチック。おとぎの国に来たみたいね」
「うん、プリンセスになった気分。私たちもいいアイデアが浮かびそうね」
そう言うと彼女たちは、花穂に「ありがとう! がんばってくださいね」と笑いかけてテーブルに戻った。
10月になると、ロビーとバンケットホールの内装の写真が先方から送られてくる。
平面図と照らし合わせて、更に詳しく演出の内容を詰めていった。
「ロビーは、ちょうど真ん中に丸いステージがある。ゆくゆくはピアノを置いてロビーコンサートを開く為のステージらしい。左右に水路があって小さな噴水も上がるそうだ。このステージをメインに演出するぞ」
「はい」
大地の言葉に頷き、花穂はデザイン画を新たに描き起こした。
「水路に架けられた橋のように、この丸いステージには誰でも階段で自由に上がれるのですよね? でしたら足元に敷き詰める花びらも、動線は空けておこうと思います。その分、真上からホテルのロゴをステージ中央に投影することは可能ですか?」
大森に尋ねると「任せなさーい!」と陽気に返される。
「よし。実際の寸法を測って、うちの社屋のアトリウムでシミュレーションしてみよう。3階から5階までの吹き抜けが、ちょうどフィオーレのロビーと同じくらいの高さになる。それぞれ必要なものを持って来てくれ。俺はビルの管理部に話して許可をもらってくる」
「分かりました」
一旦解散すると花穂はオフィスに戻り、作製した花びらを入れた大きなバッグを持ってアトリウムに向かった。
「このままだと人が歩いた時に、花びらがふわっと水路に落ちる可能性があるな」
アトリウムの床にテープで寸法通りに円を作り、実際に花びらを左右に敷き詰めてみたが、人が通ることは想定していなかった為、新たな問題点が出てきた。
「では全ての花びらに透明のテグスを通して繋ぎ、床にテグスを貼って固定しておくのはどうでしょうか?」
「いいけど、大変な作業になるぞ?」
「大丈夫です、時間はまだありますから。なるべく自然に花びらが降り積もったように繋ぎますね」
大地は返事をせず、心配そうな視線を花穂に向ける。
「浅倉さん、私のこと信用ならないって思ってますね?」
「いや、そうじゃない。青山にばかり負担がかかるんじゃないかと思って……。俺たちでも手伝えるものなのか?」
「うーん、ごめんなさい。お気持ちはありがたいですが、できればそっとしておいていただければ。私なりのこだわりがあるので」
「……分かった。だけどくれぐれも無理だけはするなよ?」
「はい」
大地と大森が5階に上がり、映像の投影や証明を調整する一方、花穂は3階のアトリウムでソファに座り、ひたすら花びらを繋ぎ合わせていった。
「花穂ちゃーん! 1回光らせてみていいー?」
5階から大森の声がして、花穂は上を見上げる。
「はい! まだ途中ですが、ひとまずざっくり敷き詰めてみますね」
「はいよー」
バランスを考えつつ、様々な色合いの花びらを無造作に重ねていく。
スカスカにならないよう、かと言ってこんもりと山にならないようにと、数も調節してふわりと飾った。
「こんな感じでどうでしょうかー?」
「オッケー! じゃあ、光らせてみるよー」
大森の声がアトリウムにこだましたあと、花びらがまるで命を吹き込まれたかのように優しく色づいた。
「わあ、綺麗ですね」
近くのテーブルでミーティングしていた女性社員たちが感嘆の声を上げる。
「花びらが淡い色合いで息づいてて、すごく幻想的」
「ほんと、うっとりしちゃう。あ! 光り方が変わった。すごい!」
「カラフルでほんとに生きてるみたい。素敵……」
その反応に、花穂は嬉しくなった。
「これ、どこで使うんですか?」
聞かれて花穂は「新しくオープンするホテル フィオーレの、ロビーインスタレーションです」と答える。
「へえ、きっと喜ばれますよ。私もチェックしておきますね」
「ありがとうございます」
するとまたしても頭上から声が響いてきた。
「花穂ちゃーん、次、花びらのシャワーも試すよ」
「はい! お願いします」
吊るし雛のように繋いだ花びらを、カーテン状に結んだアルミスティックを、大森がそっと5階の手すりから差し出す。
まるで花びらのシャワーが降り注ぐように、花穂の頭上にたくさんの花びらが色とりどりに輝いた。
「ひゃー、なんて素敵なの」
見守っていた女性社員たちは、花穂の隣にやって来て花びらを見上げる。
「はあ、ロマンチック。おとぎの国に来たみたいね」
「うん、プリンセスになった気分。私たちもいいアイデアが浮かびそうね」
そう言うと彼女たちは、花穂に「ありがとう! がんばってくださいね」と笑いかけてテーブルに戻った。



