めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

(4年前って、まさか、あの?)

自分にとって大きな自信につながった銀座のジュエリーブランドを手がけたのが、確か4年前だ。

(そうだ。オープン前日の夜、食い入るように店内を覗き込んでいた美大生の女の子。俺のデザインの良さを熱く語るあの子に、もう既にデザイナーとしての素質が備わっていると思った。だから俺は言ったんだ。デザイナーの卵じゃなく、ひよこだと)

信じられないとばかりに、大地は花穂に目を向ける。

(あの子が青山だったのか。もしや、俺のデザインを見て同じ会社に入ろうとチェレスタに?)

ほわーんとした表情で窓の外を見ている花穂を、まじまじと見つめた。

(え、でも待てよ。今の話の流れだと、青山はあの時声をかけたのが俺だと気づいていないってことか)

そう思った途端、ガクッと頭を垂れた。

(そうか。きっと青山の思い出の中で美化されてるんだろうな)

気づかれなくて当然だ。

なぜなら今の自分は、あの頃とはガラリと雰囲気が変わったと自覚しているから。

(4年前は俺も今の青山みたいに、ただ良い演出を考えるのに夢中だったな。面白くてやりがいがあって、純粋に仕事を楽しめていた)

だが今はもう、そんな気持ちにはなれない。
ライバルと競い、自分のプランニングをけなされ、スランプに陥ってからそうなった。

クライアントに認められる仕事、今はただそれだけを考えている。

人と明るく笑顔で接することも、いつの間にか忘れていた。

(青山にとって今の俺は、ただ冷たくて怖い印象だろうな。4年前の人が俺だとは思いもしないのが当然だ)

このまま黙っておく方がいいだろう。
自分だと伝えて幻滅させたくない。

(彼女にとっても、いい思い出として残しておいた方がいいだろうし。いや、でも待てよ。4年間も片思いしたままというのが本当なら、きっぱり気持ちを絶ち切らないと次の恋愛に向かえないか)

あの時の男は俺だ。どうだ?幻滅しただろう。さっさと別の相手を探せ、と伝えるべきか。

うーん、と腕を組んで頭を悩ませていると、花穂がうとうととまどろんでいるのに気づいた。