めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】

「これが花びらの試作品です。オーガンジーの色は、ピンクや白、水色や黄色など、淡い色合いにしてみました」

8月の下旬。
3人で集まった会議室で、花穂はテーブルの上に軽い素材で作った花びらを載せて説明する。

「布の中に織り込む導光ファイバーも、3パターン試してみました。布の表面に織り込んだもの、布を2重にして中にファイバーを通したもの、布のフチだけにファイバーを通したものの3つです」

大森がじっくりと手に取って見る。

「ふーん。それぞれ光り方も違っていいだろうな。花びらごとにアドレスを割り振って、色や明るさ、光るタイミングをプログラミングするよ。床に敷き詰める花びらも、5分ごとに色をグラデーションで変化させてもいいんじゃないか?」

そうだな、と大地も頷いた。

「天井裏に仕込んだ小型ファンで、断続的にわずかに空気を送って花びらを揺らそう。ワイヤーの上部にマイクロモーターを取り付けておいて、数分に一度ねじったり、緩めたりする動きを与えて揺れを演出する」

花穂は想像するだけでわくわくしてきた。

9月に入ってすぐ、大地が須崎のもとを訪れてプレゼンし、無事にOKをもらえる。

「これがホテル フィオーレの平面図だ。建設中の為、現地を下見できるのは11月になってから。それまではあらゆる状況に対応できるよう、フレキシブルに案を練っておこう」
「はい」

花穂は毎日花びらの制作に明け暮れる。

光り方や色の発色具合を現地で確かめて調節する為、予定数の倍の花びらを用意したかった。

「まだいたのか」

ある夜、会議室にひとり残って作業していると、大地がやって来た。

「浅倉さん、お疲れ様です。どうかしましたか?」
「いや。お前こそ、今何時か分かってるか?」
「え?」

聞かれて花穂は腕時計に目を落とす。
時刻は22時を回っていた。

「ええ!? いつの間に?」

驚いていると、大地がやれやれとため息をつく。

「その分だとメシもまだだろ。 食べに行くぞ、早く片づけろ」
「え、ええ!?」
「……おい、日本語分かるか?」
「イエス!」
「英語で答えるな。早くしろ」
「はい!」

花穂はバタバタとテーブルの上の材料をまとめた。