織江が退職して半月が経った。

花穂は気持ちを切り替えて、織江が担当していた案件をこなしていく。

(織江さんのあとを引き継いだんだから、しっかりしないと)

そう気合いを入れていた。

「青山さん、ちょっと来てくれる?」

部長に呼ばれて、花穂は立ち上がる。

「はい、お呼びでしょうか?」
「ああ。実はね、ホテル セレストの須崎さんから直々に、君たちにまた仕事を依頼したいと連絡があった」
「須崎副支配人からですか? 私たちというのは……」
「君と、プロデュース部の浅倉くん、それからテクニカル部の大森くんの3人にだ。本当は川島さんの名前も挙がっていたんだけど、退職したと伝えてね。残念だが、その分ぜひ青山さんにデザインをお願いしたいとのことだった」
「えっ! 私ひとりに、ですか?」
「ん? どうしてそんなに驚くことがある?」

部長に首をひねられて、花穂は口ごもる。

いつも織江と二人でデザインを担当していたが、これからはひとりで受け持たなければいけない。

分かっていたはずだが、実感がなかった。

「あの、本当に私が担当でよろしいのでしょうか?」
「先方からそう言われたんだから、大丈夫でしょ? それに川島さんから聞いてたよ。前回のホテル セレストのプロジェクト、実際の空間デザインは青山さんひとりで考えたそうだね?」
「いえ、川島さんに散々相談させていただきました。私ひとりではとても……」
「彼女はそんなふうには言ってなかったよ。青山さんは、デザイナーとして立派にひとり立ちできているって」

織江さんがそんなことを……、と花穂は胸を打たれた。

「彼女の目は確かだと私は思うが?」

部長にそう投げかけられ、花穂は覚悟を決める。

「分かりました。精いっぱいやらせていただきます」
「ああ。頼んだよ」
「はい」

自分を奮い立たせてしっかりと頷いた。