大地と一緒にタクシーに乗り、花穂はそっとその横顔を見上げる。
(浅倉さん、最後に私と織江さんが本音で話せる時間を作ってくれたんだろうな。絶対に泣かないって踏ん張ってたけど、今となっては織江さんに胸の内をさらけ出せてよかった)
そしてふと思い出す。
以前、駅の改札で別れた時、大地は織江と一緒に花穂とは反対方向のホームに向かったことを。
(私のマンションと同じ方角っていうのも、嘘なんだろうな)
今こうして同じタクシーに乗っているのも、自分を心配してくれているからなのだろう。
そう思うと、4年前のあの優しい人が、今窓の外に目をやって黙ったままの大地と重なって見えた。
「浅倉さん」
「ん、なに」
窓に肘をついて景色を眺めたまま、大地が無愛想に返事をする。
「色々とありがとうございました」
「なに、色々って」
「それは、色々です」
すると大地は、訝しげに花穂を振り返った。
「俺、国語苦手なんだってば」
「そうですか」
「お前とは分かり合える気がしない」
「そうですか?」
「ちょっ、これ、言葉通じてる?」
「そうですね」
大地はムーッとむくれた顔になる。
「ふふっ、こんな浅倉さん初めて見ました。いつもクールで淡々としてるのに。あっ、違う!」
急に大声を出す花穂に、大地は「はっ!?」と声をうわずらせた。
もう何が何やら分からない、とばかりに眉間にしわを寄せている。
「あの時の浅倉さん、にこって優しく笑ってくれましたもんね」
「……どの浅倉さんだよ?」
「この浅倉さんですよ?」
もはやお手上げだと、大地は大きなため息をついて片手で顔を覆った。
「悪い、青山。今度から英語で話してくれないか?」
「ええ!? そんなの無理です。私の英語なんて、なに言ってるか分からないですよ?」
「いや。日本語よりは分かり合えると思う、俺たち」
「どうしてですか? 浅倉さんのおっしゃる意味が全然分かりません」
「それはこっちのセリフだ!」
首をひねっていると、タクシーが花穂のマンションに到着した。
「浅倉さん、これ私の分です」
メーターで料金を確認してからお札を差し出すと、大地はふいとそっぽを向く。
「浅倉さん?」
「いらない。早く降りろ」
「え? でも……」
「運転手さんに、器の小せえ男だなって思われたくない」
ボソッと呟く大地に、「ああ、なるほど」と花穂は頷いた。
「では、会社でお会いした時にお渡ししますね。それでは失礼します」
「お疲れ」
「お疲れ様でした」
そっぽを向いたままの大地にクスッと笑ってから、花穂はタクシーを降りる。
最後に身をかがめて声をかけた。
「おやすみなさい」
果たして返事をしてくれるかな?
そう思っていると、小さく声がした。
「……おやすみ」
顔は見えないけれど、確かに聞こえた低い声。
パタンとドアが閉まって走り出したタクシーを、花穂は微笑みながら見送った。
(浅倉さん、最後に私と織江さんが本音で話せる時間を作ってくれたんだろうな。絶対に泣かないって踏ん張ってたけど、今となっては織江さんに胸の内をさらけ出せてよかった)
そしてふと思い出す。
以前、駅の改札で別れた時、大地は織江と一緒に花穂とは反対方向のホームに向かったことを。
(私のマンションと同じ方角っていうのも、嘘なんだろうな)
今こうして同じタクシーに乗っているのも、自分を心配してくれているからなのだろう。
そう思うと、4年前のあの優しい人が、今窓の外に目をやって黙ったままの大地と重なって見えた。
「浅倉さん」
「ん、なに」
窓に肘をついて景色を眺めたまま、大地が無愛想に返事をする。
「色々とありがとうございました」
「なに、色々って」
「それは、色々です」
すると大地は、訝しげに花穂を振り返った。
「俺、国語苦手なんだってば」
「そうですか」
「お前とは分かり合える気がしない」
「そうですか?」
「ちょっ、これ、言葉通じてる?」
「そうですね」
大地はムーッとむくれた顔になる。
「ふふっ、こんな浅倉さん初めて見ました。いつもクールで淡々としてるのに。あっ、違う!」
急に大声を出す花穂に、大地は「はっ!?」と声をうわずらせた。
もう何が何やら分からない、とばかりに眉間にしわを寄せている。
「あの時の浅倉さん、にこって優しく笑ってくれましたもんね」
「……どの浅倉さんだよ?」
「この浅倉さんですよ?」
もはやお手上げだと、大地は大きなため息をついて片手で顔を覆った。
「悪い、青山。今度から英語で話してくれないか?」
「ええ!? そんなの無理です。私の英語なんて、なに言ってるか分からないですよ?」
「いや。日本語よりは分かり合えると思う、俺たち」
「どうしてですか? 浅倉さんのおっしゃる意味が全然分かりません」
「それはこっちのセリフだ!」
首をひねっていると、タクシーが花穂のマンションに到着した。
「浅倉さん、これ私の分です」
メーターで料金を確認してからお札を差し出すと、大地はふいとそっぽを向く。
「浅倉さん?」
「いらない。早く降りろ」
「え? でも……」
「運転手さんに、器の小せえ男だなって思われたくない」
ボソッと呟く大地に、「ああ、なるほど」と花穂は頷いた。
「では、会社でお会いした時にお渡ししますね。それでは失礼します」
「お疲れ」
「お疲れ様でした」
そっぽを向いたままの大地にクスッと笑ってから、花穂はタクシーを降りる。
最後に身をかがめて声をかけた。
「おやすみなさい」
果たして返事をしてくれるかな?
そう思っていると、小さく声がした。
「……おやすみ」
顔は見えないけれど、確かに聞こえた低い声。
パタンとドアが閉まって走り出したタクシーを、花穂は微笑みながら見送った。



