「君に花を贈る」番外編……各所の花壇にて

「……っ!」

 嫌な夢で飛び起きた。
 いつもの伯父に怒鳴られたり突き飛ばされたりする夢だ。
 時計を見ると、夜中の二時。シャツは汗でベタベタ、エアコンの風音がやけに大きく響いている。あっという間に寒くなってきて、体がブルりと震えた。
 ベッドを出てシャツを脱ぎ、別のシャツに着替える。それでも震えは止まらなかった。
 机の上に、昼間行った鈴美の個展の目録が置きっぱなしになっていた。
 ああ、だから、あんな夢を見たのか。
 捨てようと手に取ったとき、本棚のチューリップがふと目に入った。
 花音ちゃんが育てて、瑞希がくれたチューリップをプリザーブドフラワーにして、ガラスのケースに入れたものだ。
 それを手に取って見つめる。花びらがフリルみたいに広がって、華やかで可愛らしいチューリップ。
 大好きなあの子みたいな花だった。

「……会いたいな」

 あの子が手を引いてくれたから、俺は悪夢に立ち向かえた。なのに、また負けそうになってた。ここで目録を捨てたらダメだ。向き合うって決めて、あの子にも同じものを渡したのは俺なのに。

 椅子に腰を下ろす。
 チューリップをお腹の前に抱えたまま、目録を開いた。最初の生け花を見たとき、あの子はなんて言ってたっけ。目を丸くして、ぽかんとした顔で。
 パラパラとページをめくる。花そのものより、花を見ていた花音ちゃんの顔を思い出していた。

 時計を見ると三時前。さっきまでうるさく感じていたエアコンは、静かに空気を吐き出していた。
 気づけば震えも止まり、悪夢のことなんてすっかり忘れていた。
 目録を閉じて、本棚にしまう。その手前にチューリップを飾っておく。
 目覚まし時計を止めて、部屋を出た。

 あの子がいれば、俺は悪夢だって乗り越えられる。