「君に花を贈る」番外編……各所の花壇にて

「さみしい……つらい……」
「うるせえなあ、いいから飲めよ」

 リビングのソファで、泣き言を言いながら徳利をあおってるのは、幼馴染の須藤小春だ。俺、由紀一葉はそれを肴にチューハイを飲んでいる。
 今日と明日は、地域の婦人会の旅行で、うちのも須藤んとこのも、カミさんと娘がいない。だから今夜は、親父連中はうちで、息子組は須藤んちで飲んでるってわけだ。
 けど須藤はというと、嫁がいなくて寂しいって、ずっとしょぼくれている。

「お前……そんなに泣くくらいなら行かせなきゃよかったのに」
「それはダメだ。桐子さんには桐子さんの付き合いがあるし、俺がそれを邪魔しちゃいけねえ。……でも、寂しい……」
「……アホか」

 立ち上がって、冷凍庫を開ける。
 唐揚げと焼きおにぎりを出して、レンジに放り込む。

「あ、あん肝ある?」
「あるわけねえよ。……いや、待て、缶詰がなんかあったな……」

棚を探すと、あった。
しかも、牡蠣とスモークサーモンまである。

「いいの見つけた!」
「わ、やった!さすが!」

 つまみを二人で運んで、ついでに酒も出してきた。

「それにしても、藤乃ってお前そっくりだよな」
「顔は桐子さんなんだけどなあ。中身まで似てくれりゃよかったのに」
「ほんとにな。小春の気持ち悪いとこ、そっくりだよ。花音といるときとかさ」

 小春んとこの息子と、うちの娘は一年くらい前から付き合ってて、来年には結婚するつもりらしい。
 藤乃のことは赤ん坊のころから見てるし、小春が嫁さん大事にしてるのもわかってるから、嫁に出すことに不安はない。
 強いて言えば、上の瑞希にまるで女っけがないのが気がかりなくらいで……。あいつ、跡継ぎどうする気なんだ?
 まあ、どうにもならなきゃ、畑は売っちまえばいい。先のことは瑞希と花音が考えりゃいいさ。

「あれ、須藤? 寝た?」

 気づいたら須藤は机に突っ伏して寝ていた。
 リビングから膝掛けを持ってきてかけてやると、「桐子さん……ありがと……」なんて寝言を言ってる。
 まあ、いいか。残りの牡蠣は全部食べとこう。

 あの缶詰は、瑞希が取り寄せたやつだったらしくて、次の日にえらい怒られた。仕方ないんで、須藤に買い直させた。