「君に花を贈る」番外編……各所の花壇にて

 夏の夕方、仕事を終えて帰ると、カミさんが網戸を付け直していた。
 そういえば、動きが悪いから掃除すると言ってたな。声をかけてくれれば俺がやったのに。でも、声をかけても「自分でやる」と断られるだろうとも思う。

「手伝う」
「あら、お疲れさま。いいわよ、これくらい」
「……いいから」

 自分の嫁にやたら甘い幼馴染のことを思い出して、カミさんの手から網戸を受け取って付け直した。

「ありがとう。珍しいわね、手を貸してくれるなんて」
「……須藤なら、そうするかと思ったんだよな」
「するでしょうねえ。そもそも桐子さんが気づく前に網戸の掃除と張替えまで終わらせてそう」
「たしかに」

 きっと、「桐子さんの手を煩わせたくないからね。快適に過ごしてほしいんだよ」なんて言うんだろう。
 先日、須藤が「結婚四十年はルビー婚って言うらしいんだけど、ルビーの指輪を贈ったらつけてくれるかな」なんて言ってきた。知らねえと答えたけど、うちのカミさんも、もしかして欲しいと思ってるのかもしれない。
 隣に立つカミさんを見下ろす。
 親に勧められて見合いをし、一緒になった彼女。苦労をかけた自覚はある。お嬢様育ちだった彼女が慣れない農家の嫁として、由紀本家の妻として苦労してきたことは知っている。俺の妹たちが、彼女にいろいろ言っていたこともわかってる。

「お前も、自分でできるんだろうけど……たまには言ってくれよ。須藤みたいにはできねえけどさ」

 カミさんは目を丸くした。
 余計なことを言わなきゃよかった。俺に、そういうことは向いていないんだ。

「どうしたのよ、いきなり」
「……どうもしねえ」
「あなたが瑞希のアイス食べちゃったことは、もう瑞希に言っちゃったけど」
「それは関係ねえし。いや、言うなよ、そういうのは……」

 どうにも、須藤みたいに妻を褒める言葉は出てこない。でも、思ってないわけじゃない。

「だからさ、須藤みたいにはうまく言えねえけど……俺だって、似たようなこと思ってんだよ」
「あらま」

 カミさんは、「あらあら」と笑い出した。

「そう。ありがとう」

 それだけ言って、彼女は家の中へと戻っていく。耳が赤いのは夕日のせいか、それとも――よくわからなかった。