「君に花を贈る」番外編……各所の花壇にて

 花屋を閉めていたら、急なにわか雨に降られた。今日は夫と息子が剪定の仕事に出ていたけれど、もう帰ってきている。バイトの葵ちゃんは、一時間ほど前に義父が送っていった。
 まあいいかと思って、ゆっくり片づけて帰ると、息子とその友達の瑞希くんが二人で飲んでいた。

「おばさん、お邪魔してます!母から惣菜のお裾分けを持ってきたんで泊まらせてください」
「ありがとう、もちろんいいわよ。藤乃、お父さんはどうしたの?」
「風呂入ってる。晩ごはんは台所にあるよ。惣菜は冷蔵庫に入れといた」
「わかったわ。……あなたたち、本当にお父さんたちにそっくりね」

 つい漏らすと、二人はそろって顔をしかめた。

「それ、俺も親父に似てるってことですか?」

 瑞希くんが嫌そうに言う。

「ええ。瑞希くん、顔はお母さん似だけど、藤乃と飲んでる姿はお父さんそっくりなのよ。藤乃もね……」
「親父、酒入るとうるさいんだけど、あれに似てるのか……やだな……」

 口を尖らせながら、瑞希くんはビールを一気にあおる。藤乃も同じように飲みながら、話し込んでいた。
 一番似ているのは、二人の仲の良さ。でも、それは言わずにおいた。スマホで写真を撮って由紀さんに送ると、「ふたりとも父親そっくりね」と返信がきた。
 台所で晩ごはんを確認していると、夫が風呂から出てきた。

「桐子さん、おかえり。今日もすごく可愛い。お風呂、温め直してあるから入ってきな」
「……ありがとう」

 夫とは高校で知り合った。初対面のときから、ずっとこんな調子だった。藤乃も付き合っている彼女を、付き合う前から、まるで同じ調子で口説いていたのを私は見ている。

 風呂から上がると、雨はすっかり上がっていて、夫は息子たちと一緒に飲んでいた。
 台所では義父が晩酌中で、よく見ると、スマホで義母とビデオ通話をつなぎながら飲んでいた。
 さて、私はどうしよう。
 迷う間もなく、夫が笑顔で私を呼んだ。