進路指導室で、愛を叫んで

「ただいま、桐子さん」

「おかえりなさい、小春さん」


 進路指導室でのプロポーズから三十四年。

 水道管の破裂をきっかけに家を建て替えて、私たちは今、初めて二人きりの暮らしをしている。

 息子の藤乃も結婚して、花音ちゃんと仲良く二人暮らし。

 お義父さんとお義母さんも、高齢者向けの設備が整ったマンションに引っ越した。

 お義母さんから継いだ花屋は、藤乃と花音ちゃんが手伝ってくれていて、ますます繁盛している。

 造園の仕事も、小春さんと義父、藤乃が頑張って、地域に根ざした仕事ができていると思う。


「家に桐子さんがいるって最高だなあ」

「三十年以上前からいるじゃない」

「うん。だから俺は毎日幸せです」


 小春さんは相変わらず、毎日飽きずに私を甘やかしてくれている。

 甘やかされすぎてダメにならないよう気をつけるのが、むしろ大変なくらい。


「ねえ、小春くん」

「んんっ!? どしたの桐子さん……いきなり……」

「初々しい藤乃と花音ちゃんを見ていたら、私も久しぶりにそう呼びたくなっちゃったの。ね、小春くん。ありがとう。三十年前、私の手を引いてくれて」


 そう言うと、あのときから変わらない甘ったるい顔で、小春くんは私を抱きしめた。


「うん。言っただろう? 死ぬまであなたを大事にするし、泣かせないし、嫌な思いもさせない。これからも、ずっと約束は守るよ」


 彼の腕の中は三十年前と変わらず、安心できる場所のまま。
 私は腕を伸ばして、小春くんの背中に触れた。