進路指導室で、愛を叫んで

 私、藤宮桐子が須藤家に引き取られて、もう半年が経つ。


 毎朝三時に起きて、お義母さんと花市場に向かう。

 買い付けは以前からやっていたので慣れていて、お義母さんも「小春より見る目があるわね」と褒めてくれる。

 帰ると、お義父さんと夏葉義姉さん、小春くんが朝食を用意してくれていて、五人で一緒に食べる。食べながらそれぞれの一日の予定を共有して、お義父さんと小春くんは造園業の仕事に向かう。

 私は夏葉義姉さんからお店の経理や事務を引き継ぎながら、花屋の開店準備を進める。

 家のことをやるときもあるし、庭木の手入れや、お義母さんが家の裏でやっている小さな畑の手入れを手伝うこともある。


 嫁いで家を出たという秋江義姉さんともお会いした。

 お義母さんと同じく、サバサバして落ち着いた雰囲気の人で、話し方は淡々としているけれど、笑顔がかわいらしい人だった。


「話は聞きました。小春がごめんなさいね」

「いえ、とんでもありません。小春くんが手を引っ張ってくれたから、私はこうしていられるんです。感謝しかありません」



 ……須藤さんのご家族には、本当に大切にしていただいている。

 こんな温かいお家だから、小春くんはこんないい人なんだなって、引き取られてすぐわかった。

 でも……あの日、進路指導室でプロポーズされて以来、小春くんは私にそういったことを一切口にしない。

 毎日のように「かわいい」「きれいです」「家に桐子さんがいるのって最高ですね」なんて言われるけど、それは高校の頃と変わらない。

 かといって、自分から「あのプロポーズ、どうなったんだっけ?」なんて聞いていいのかも分からない。

 でも、それ以外のことは全部守ってくれている。

 何かと私の写真を撮ってくれるし、手のあかぎれも毎日手入れしてくれる。

 食事の支度や家事も、いつも一緒にやってくれる。ごはんのときも、しょっちゅう足りているか聞いてくれて、あまりに聞くのでお義母さんに叱られることもあるくらい。

 だから余計に、プロポーズについては聞けなかった。

 悩んだ末に、花屋の閉店作業中、夏葉義姉さんに相談した。



「えっ、小春、進路指導室でプロポーズしたの……あはは、ウケる」

「でも、それ以降、そういう話が出なくて……小春くんが忙しいのは分かってますし、自分から急かすのも気が引けて」

「別に気にしなくていいんじゃない? 小春が桐子ちゃんのこと好きで仕方ないのは見てればわかるしさ。えっと、ちょっと待ってね」


 夏葉義姉さんは店のカレンダーを見つめた。


「あ、ここ。来週のこの日ね、小春が休みだから、桐子ちゃんも休みにしたらいいよ。なんだかんだ、丸一日ゆっくりできる日って、なかなかないもんね」

「でも……」

「この日、もともと父さんが町内会の用事でいないし、造園屋も休みだから、店は私と母さんでなんとかなるし。気になるなら、朝だけ予約の花束を作っておいてくれたら助かるよ。桐子ちゃんの作る花束は人気だからね。小さいのもいくつか作って、店頭に並べたいな」

「……はい! わかりました。ありがとうございます」


 片付けを終えて、二人で家に戻り、お義母さんに相談した。

 快く了承してもらえたので、あとは私の心の準備だけ。