「いや、泣きすぎだろ」


 先輩を笑顔で見送ったあと、生物室に来た。

 期末試験前で準備室には入れないから、教室の机に突っ伏してめそめそしている。

 横では由紀が静かに教科書をめくっていた。


「だって……無理。つらい、ほんとに無理」

「そんなに好きなら、いっそ自分のものにしちゃえばよかったのに。その流れで落とせない女なんていないだろ」

「やだ。先輩には、ずっと笑っててほしい。俺のワガママで夢を捨てさせるなんて、できない」

「じゃあ、須藤が家を出るって選択肢はないわけ?」

「ない。……それは、ない」

「それでそこまで落ち込んでるとか、どうしようもないな」


 呆れたように言って、由紀はまた静かに教科書をめくった。

 一人でめそめそしていると、教室の扉が開いた。


「あ、いたいた。ゲーセン行こうぜ」


 騒がしく入ってきたのは坂木。

 その後ろには美園もいる。


「今、失恋して泣いてるから無理」

「明日から期末試験だっつうの」


 顔をしかめた由紀に、坂木がニヤリと笑った。


「試験なんて、寝る前に教科書読めばどうにかなるって」

「そうそう、失恋なんてパーッと遊べば忘れられるよ。ゲーセン行こ」


 二人は机の前まで来て、やけにテンションが高い。


「……それもそうだな」


 由紀まで頷いて、教科書をカバンにしまいはじめた。

 それもそう、じゃねえんだよ。

 ……とは思うけど、この三人はいつも学年十位以内をキープしてる。

 まあ、俺もそれより落ちたことはないけど。

 さすがに試験前日にゲーセン行って、それでも上位を取るとか鼻につく。だ

 からそういうバカは、この四人だけの内輪ノリで済ませる。


「おい、行くぞ須藤。泣いたままでいいから。お前がいないと寂しいんだよ」

「……マジで?」

「マジ。お前がいないと人数が奇数になって、ホッケーとかレーシングやりにくいし」

「……そんなこったろうと思ったよ」


 立ち上がって、袖で顔を拭き、騒がしい三人のあとを追った。