* * *
日曜日。晴人に頼まれて、私は彼の家に勉強を教えに来ていた。
晴人の部屋は、私の部屋と違って全体的に物が少なく、男の子らしいすっきりとした部屋だ。
「暑いだろ? とりあえず、これ飲めよ」
勉強を始める前に、晴人が差し出してくれたのは、グラスにたっぷりと注がれた冷たいアイスコーヒー。
窓から差し込む陽光が、グラスの中で揺れる氷をキラキラと反射させている。
部屋には、淹れたてのコーヒーの香ばしい匂いがふんわりと漂っていた。
「わ、ありがとう!」
さっそく一口飲むと、コーヒーのすっきりとした苦みが、胸にこみ上げてくる緊張を少しだけ和らげてくれた。
「なあ、美波。この問題、教えてくれよ」
私たちは数学の問題集を広げ、一つのテーブルを挟んで向かい合う。その距離は、すぐ手が届きそうなほど近い。
「えっと、この問題は、この公式を使うんだけど……」
私が説明すると、晴人は真剣な面持ちで私の話に耳を傾ける。
「なるほど。それじゃあ、解いてみるわ」
晴人の視線が、私からノートへと移った。
それからしばらくの間、勉強に集中する私たち。
時折聞こえるのは、彼がシャーペンを走らせる音と、二人きりの空間に響く静かな息遣いだけ。
誰にも邪魔されない、この時間が心地よかった。
「なあ、美波。やっぱりお前は、教えるのが上手いな」
「え?」
ふと、シャーペンの音が止まった……と思ったら。晴人が顔を上げて、にっこりと微笑んだ。



