晴人が私のほうに一歩近づくと、教室に差し込む西日が彼の横顔を照らす。
窓から入る鮮やかな光の筋が、二人だけの間に不思議な静けさを生み出した。
ふと晴人の腕を見ると、先ほど脚立から落ちそうになった私をかばってできた擦り傷が、痛々しく残っている。
「……ごめん、晴人」
「いいんだ。これくらい、大したことないから」
私が思わず謝ると、晴人は小さく笑った。
その笑顔には、彼の優しさがにじみ出ている。
けれど、私は彼の言葉に耳を傾ける余裕もなく、近くにあった救急箱を手に取った。
「腕、早く手当しないと」
私が消毒液を湿らせたコットンをそっと擦り傷に当てると、晴人は少しだけ顔をしかめた。
「……っ」
「晴人、痛む?」
私が尋ねると、晴人は私の顔を見て、小さく首を横に振った。
「ううん。俺は、美波がそんな顔をしているほうが、もっと辛い」
少し、照れたように話す晴人。



