今まで、晴人の優しさは誰にでも向けられるものだと思っていた。
けれど、いま目の前にいる彼は、まるで私に何かあったら耐えられないとでも言うように、ひどく焦っているように見えた。
それは、谷原さんと一緒にいるときの晴人とも、他の友達と話しているときの晴人とも違う。
あの日、私の前髪を直してくれた指先。そして、数学の難しい問題を見つめていた真剣な眼差し。
これら全てが、私にとって、彼にとって、特別な意味を持っていたのかもしれない──。
長年の親友という関係が、今、大きく揺らぎ始めたのを肌で感じた。
もしかしたら、私だけが一方的に彼に想いを寄せているわけではないのかもしれない。
確証はないけれど、淡い、確かな希望が胸の奥に灯った。
晴人が私を抱きとめたあと、少し離れた場所で、谷原さんが私たちのほうをじっと見つめているのが見えた。
普段の明るい笑顔とは違い、どこか寂しそうな、それでいて真剣な眼差しだった。
* * *
文化祭の解体作業も終盤に差し掛かり、生徒たちが三々五々帰り始める中、谷原さんが私の近くにやってきた。
私は少し身構えたが、彼女の表情はどこか複雑な色を帯びていた。
「あの、真田さんと少し話したいんだけど……いいかな?」
谷原さんの声は、いつもよりずっと控えめだった。
何だろう?
私が頷くと、彼女は一歩近づいてきた。



