親友のキミと、あと1ミリの恋



「ねえ、石川くん。こっちの壁の飾りつけ、手伝ってくれない?」


谷原さんの声が聞こえ、私は手元の作業を止める。彼女は、私たちから少し離れたところで、大きな壁に向かって作業していた。


「あ、ごめん美波。ちょっと手伝ってくるわ」


晴人は私にそう言い残し、谷原さんのもとへ駆けていった。その背中を、私は思わず目で追ってしまう。


ああ、晴人は私に一言断りを入れると、いとも簡単に谷原さんのもとへ行ってしまうんだな。


彼の歩く足取りとともに、私の心はまた少しずつ沈んでいくのを感じた。


まるで、彼の背中が、どんどん遠くなっていくようだった。


私は、晴人がいなくなってからも、一人で黙々と作業を続ける。


鋏を握りしめすぎて、指の関節が白くなっていることに気づいた。


こんなにも心が乱されているのに、作業を止めることなんてできない。そうでもしないと、この場にいる意味がないような気がしたから。


「やっべー。失敗した」

「ふふっ。やだ、もう。石川くんったら」


遠くから聞こえる、晴人と谷原さんの笑い声。その笑い声が、私の胸を締めつける。


私にはできない、彼女のあの自然なスキンシップや、楽しそうな会話。


それが、私と晴人の間にある「壁」を、より高くしているように感じた。


「そういえば、石川くんって真田さんと仲良いよね。もしかして、二人は付き合ってるの?」


谷原さんの声が、少し離れた私の耳に届く。


晴人、なんて答えるんだろう?