「というわけで、お前ら、頼んだぞー」
先生からクラス全員の役割分担が発表されたあと、ようやく状況を理解した私は、密かに安堵した。
いや、安堵なんて生易しいものじゃない。
秋祭りでの出来事以来、晴人との間にできてしまった距離が、この文化祭準備でまた縮められるかもしれない。
そう思っただけで、私の心は浮き立つようだった。止まっていた世界が再び動き出したみたいに、私の心は希望で満たされていく。
秋の冷たい風に凍えていた私の心に、ほんの少しだけ、温かい光が射した気がした。
準備が始まると、私たちは暗幕を吊るしたり、ダンボールでオブジェを作ったりと、教室の隅で黙々と作業を進めた。
晴人は手先が器用で、細かい作業もてきぱきこなす。
「美波はこっちのほうが得意だろ? これは俺がやるから」
「ありがとう」
私がうまくできないところがあると、晴人はごく自然に助けてくれる。
晴人と二人で協力し合いながら、順調に作業は進んでいた。
やっぱり晴人と一緒にいる時間は、何よりも居心地がいい。
準備をしているときだけは、秋祭りでの不安も、谷原さんの存在も、どこかへ追いやられる。
「この段ボール、重いな。俺が持とうか?」
「大丈夫だよ。二人で持てばいいし」
何気ないやり取りを交わす、私たち。
晴人が隣にいる。それだけで、私の心は満たされていった。
けれど、そんな時間も長くは続かなかった。



