その夜、私はなかなか眠れずにベッドの中でスマホを握りしめていた。
晴人のアイコンをタップして、【明日、一緒に帰れる?】と入力する。
でも、送信ボタンをなかなか押すことができない。
もし、【ごめん、友梨と約束したから】なんて返信が来たら、私はどうしたらいいんだろう。
結局、その日は何も送れず、ただ時間だけが虚しく過ぎていった。
翌朝。
「美波、おはよう!」
この日もいつものように晴人が家まで迎えにきてくれた。
彼は昨日のことなど、まるで何事もなかったかのように私に話しかけてくる。
そんな彼の様子に、私は複雑な思いでいっぱいになった。
いつまでも気にしているのは、私だけなの?
晴人は私と谷原さんの間に何の違いも感じていないように見えた。
「なあ、美波……聞いてるか?」
晴人の変わらないその無邪気さが、私にはひどく遠いものに感じられた。そして、同時に苦しかった。
もう、何事もなかったフリをするのは、私だけなのだろうか。



