数日後の放課後。
この日は晴人の部活が休みのため、いつものように昇降口で彼を待っていた。
「ごめん、美波! 待った?」
「ううん。私も、今来たところ」
晴人と並んで、歩き出そうとしたとき。
「あっ、石川くん!」
谷原さんが、私たちのところに駆けてきた。
「ねえ、石川くん。ちょっと相談があるんだけど……」
そう言いながら、谷原さんは晴人の腕をポン、と軽く叩いた。
その仕草があまりにも自然で、私には眩しかった。
けど、同時に、心臓がまるで冷たい手で掴まれたような感覚に陥る。
席が隣同士の晴人と谷原さんは、二人で話しているところを最近よく見かけるけれど。
谷原さんはきっと、晴人の好きなアイドルのことや最近流行りの動画の話なんかを、当たり前のようにしているのだろう。
私にはできない、彼女のその積極的な行動が、ただただ羨ましかった。
「ごめん、美波。先に帰っててくれるか?」
「えっ!?」
「悪い。ちょっと用事を頼まれちゃって」
晴人は悪気なく、いつもの笑顔で私に告げた。
その笑顔は、谷原さんに向けられていたものと同じくらい無邪気で。だからこそ、余計に胸が締めつけられた。
まるで、彼にとって私と彼女に何の差もないとでも言うように。



