「ああ、いいよ」
晴人は谷原さんに快く応じ、丁寧に問題の解説をしている。
「わー、石川くんって頭良いんだね! 頼りになる~」
「へへっ、そうか?」
谷原さんが褒めると、晴人は照れたように、だけど、とても嬉しそうに笑った。
いつもの屈託のない笑顔だけど、私といるときとは違う、どこかぎこちない嬉しさが混じっているような気がする。
何よ、晴人ったら。デレデレしちゃって……!
これまで私だけに見せてくれていたと勝手に思っていた、晴人の優しい笑顔が今、谷原さんに向けられている。
言いようのないイライラと、胸の奥に冷たい氷の粒が落ちるような不安が湧いた。
「あっ! 美波もさ、もし何か分かんないところがあったら、いつでも俺に聞いてくれよな!」
昼休みが終わる間際。谷原さんと話していた晴人が、ふいに私のほうを向いてそう言った。
「俺、英語は得意だからさ」
任せておけ、とでも言うように、少し自慢げに胸を張る晴人。
もちろん、晴人に悪気はない。
私にとって、彼に勉強を教えてもらうのは昔からの当たり前で、晴人にとっては谷原さんも同じように「困っている友達」の一人なのだろう。
そう分かっているけれど……晴人の無邪気な優しさに、私の胸は再びズキンと痛んだ。



