それから黙々と問題集に取り組み、数十分ほどが経過。
勉強の途中、私がふと窓の外に目をやると、晴人は黙ってアイスコーヒーを私のほうへそっと寄せてくれた。
「頑張るのもいいけど、無理するなよ。もし疲れたら、いつでも言ってくれ」
「う、うん。ありがとう」
晴人の優しい言葉に、胸の奥がきゅうっと締めつけられる。
さっきはからかってきたかと思えば、今度は優しく気遣ってくれて。ほんと、晴人ってばよく分からない。
こんなふうに優しくされたりしたら、晴人のことをまた好きになってしまうじゃない……。いや、もうとっくに、好きなんだけどさ。
勉強が終わり、私は帰る準備をしながら、晴人の部屋を改めて見渡す。
バスケのユニフォームや、読みかけの雑誌が置いてあり、彼の日常が垣間見える。
この部屋に来るたびに、いつもは遠くに感じていた彼との距離が、ぐっと縮まるような気がする。
親友として許されたこの場所が、とても尊くて、同時にどうしようもなく切ない。
ふと、私の視線が晴人が使っていたシャーペンに留まる。
私の手元にある自分のシャーペンと、彼のそれを、そっと並べてみた。
この距離、あと数センチでいい。
私の指が、彼のシャーペンに触れようと、ほんの少しだけ近づく。
あと一歩……。だけど、その一歩が踏み出せない。
もし、私が晴人に告白して振られたら……もうここには来られなくなるのかな?
ふと、そんな考えが頭の中をよぎった。
だったら……晴人とのこの関係を壊すくらいなら、一生このままでいい。
親友という肩書きにしがみつくことしかできない自分が情けなくて、どうしようもなく嫌になった──。



