深夜、リディアはひとり、舞踏室へと足を運ぶ。
誰もいない空間で、鏡張りの壁に自分の姿が映る。
整ったドレス、完璧な立ち姿。
誰から見ても、品位ある王女として映っているだろう。
(……なのに)
「どうして、私は“選ばれなかった”の……?」
初めて、声に出してしまった。
その呟きが、鏡の中の自分にぶつかって、跳ね返ってくる。
「どうして、私じゃ……なかったの?」
その瞬間、涙がこぼれた。
流してはならないと、ずっと堪えてきたものが、音もなく頬を伝っていく。
誰も見ていない夜。
誰にも言えない涙だけが、リディアの頬を濡らした。
けれど――その涙を拭いきる前に、扉の向こうに気配が走った。
誰かが、そこに立っていた。
「……誰?」
扉が、そっと開いた。
そこにいたのは、意外な人物だった――
扉の向こうに立っていたのは、ひとりの青年だった。
「……シオン殿下?」
銀の髪に氷のような瞳。
アグレイスの腹違いの弟にして、東離れの塔で魔道の研究に専心していた、王家でも特異な立ち位置にある第三王子――シオンだった。
「こんな時間にどうしてここに?」



