「そなたは、本当に愛おしい」
「……アグレイスさま」
ふたりはそっと唇を重ねる。
控えめで、けれど心からの愛を込めた口づけ。
そしてその夜――
ふたりは寄り添うように、静かに眠りについた。
温もりだけが、互いを包んでいた。
その頃。
別の宮殿の一角で、リディアは報告を受けていた。
「本日の王妃様の視察、公評は極めて良好でした。とくに子供たちへの対応は――」
「……そう。結構なことね」
リディアは微笑む。
それは王女としての完璧な礼節に満ちた微笑み――だがその瞳には、見えない影があった。
(あの子が、あそこまで人の心を……)
いつしか、自分が「当然」と思っていた妃の座が、遠くなっていた。
焦りではない。嫉妬とも違う。
ただ、心のどこかに――言葉にならない“空白”が生まれ始めていた。
夜空の下、別々の場所で過ごすふたりの姉妹。
その距離は、まだ近づいてはいなかった。
けれど――確かに、何かが動き始めていた。



