蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜




「お妃様は……本当に優しい方ですね」

「まるで本物の“光の乙女”のようだ」



 その帰り道、セレナは小さな手紙を握っていた。
 ひとりの少年がそっと手渡してくれたものだ。


《ありがとう。いつか僕も、人を守れる人になりたい》


 涙が出そうになった。


(私は……ちゃんと、守れているのかな)


 でもそのとき、後ろからそっと肩に手が触れた。


「十分すぎるほどだ、セレナ」


 アグレイスの声。
 振り向けば、どこか誇らしげな、けれど柔らかな表情を浮かべている。


「そなたが民の前に立つ姿を見て、心から思った。……私は本当に、良き伴侶を得たのだと」

「……私こそ、あなたの隣に立ててよかった」


 ふたりの視線が交わる。

 そのまま馬車に乗り込むと、帰り道はふたりきりだった。

 王宮に戻ってからの夜。
 ふたりは書斎で紅茶を飲みながら、静かに過ごしていた。

 外では、夏の夜風が軽くカーテンを揺らしている。


「今日は……子供たちと触れ合って、あらためて思いました。人って、誰かに見守られていると、あんなふうに輝けるんだって」


 セレナの言葉に、アグレイスはゆっくり頷く。


「その“見守る”力を、そなたは自然に持っている。それは誰かが教えられるものではない。……生まれ持った優しさだ」

「そんなふうに、言われたら……」


 照れて顔を逸らすセレナの頬が、ほのかに紅く染まる。
 アグレイスはその頬に、そっと指先で触れた。