一方その夜。 リディアは鏡台の前で、無表情に紅を引いていた。 侍女が控えめに声をかける。 「姫様、セレナ様が明日、民の養育院を訪問なさるそうで――」 「そう。ふさわしいお振る舞いを、なさるといいわね」 その声音に、毒はなかった。 けれど、なぜか凍てつくような冷たさが滲んでいた。 (このままでは終わらせない――私の物語も、まだ……) リディアの瞳に、わずかながら翳りが灯っていた。