蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜




「疲れていないか?」

「少しだけ。でも、皆さんが丁寧に教えてくださるから……なんとかがんばれています」

「無理はしなくていい。……なにか困ったことがあれば、すぐに言うのだぞ」

「……ひとつだけ」


 セレナは、少し迷ってから口を開いた。


「リディア姉さまのこと、です」


 アグレイスの表情がほんの少しだけ、引き締まる。


「冷たくはされていません。むしろ……丁寧に接してくださいます。でも、その分……本当の気持ちが、まったく見えなくて」


 言葉にすると、胸が少し痛んだ。


「姉さまは……きっと、傷ついたんだと思います。私が、あなたと番になるって決まってから……」


 アグレイスは静かに頷く。


「リディアは強いようで、脆い面もある。わたしのせいだ」

「違います。私の――」


 「せい」と言いかけて、セレナはやめた。

 責任を引き受けることが優しさになるとは、限らないと知っていたから。


「……いつか、また姉さまと、ちゃんと話せるようになりたい」


 その想いだけは、揺らがない。

 アグレイスは、そんな彼女の肩を静かに抱いた。


「そなたは本当に、強くなったな」


 その言葉に、セレナはそっと顔を伏せた。
 けれど、その頬には確かな誇りが浮かんでいた。