「セレナ。今夜は、形式も責務もすべて脇に置こう。……そなたと、ただ向き合いたい」
「……はい」
ぎこちなくも、真っすぐに見返すセレナに、アグレイスは微笑んだ。
ふたりはソファに腰かけ、そっと手を繋いだ。
交わす言葉は少ないが、あたたかな沈黙がふたりを包んでいた。
「……ねえ、アグレイスさま」
「うん?」
「私……あなたに見合う番妃になれてるかな?」
その問いに、彼はすぐに答えなかった。
代わりに、セレナの手の甲にそっと口づける。
「見合う、などという言葉では足りぬ。そなたは、わたしの誇りだ」
「……そんなふうに言われたら、もっとがんばらなきゃって思っちゃいます」
「それでいい。けれど、忘れるな――がんばりすぎる必要はない。そなたのままで、わたしは十分幸せだから」
その優しい声に、セレナは目を潤ませながら微笑んだ。
そして、ふたりの唇がそっと触れた。
甘く、慎ましやかな口づけ。
愛を語るよりも、想いが深く伝わるような、静かな熱が胸の奥を満たしていく。
セレナの背に、そっと手が添えられる。
抱き寄せられた体は、もう震えていなかった。



