「アグレイスさま……」
彼は歩み寄ると、何も言わずにセレナの手を取った。
「ここまで、よくついてきてくれたな。苦しいこともあったはずだ」
「……はい。でも、それ以上に……嬉しいこともたくさんありました」
自然と、ふたりはソファの傍へと腰を下ろす。
セレナの手は、ほんの少し震えていた。
アグレイスはそれに気づき、指先を絡めるようにして、そっと手を包む。
「わたしは、そなたを縛るつもりなどない。ただ……そなたが“わたしを選んでくれた”ことが、何よりも誇りだ」
その言葉が、深く胸に響いた。
「……怖い気持ちも、恥ずかしい自分も、全部そのまま、あなたに見せていいんですか……?」
セレナがそっと尋ねると、アグレイスは静かに頷いた。
「見せてくれ。すべてを。その不器用さも、真っ直ぐな心も、愛おしいと感じるのは――そのすべてがそなたそのものだからだ」
それは、拒むことも逃げることもできないような、やさしい愛の言葉だった。
セレナは気づくと、彼の胸元に頬を寄せていた。
その腕の中はとてもあたたかくて、夜の静けさが、優しく彼女を包み込んでいた。
心臓の鼓動が、ひとつ、ひとつ、確かに重なる。
「……明日、わたし、あなたの隣に……ちゃんと立てるようにがんばります」
「もう立っている。そなたはずっと、わたしの隣にいる」
アグレイスは、そっとセレナの髪に口づけた。
甘く、けれど慎み深く。
まるでその香りごと、大切に包みこむような優しさだった。
「好きです……アグレイスさま……」
小さくこぼれたその想いに、彼はそっと囁き返す。
「わたしも、そなたを――深く、愛している」



