翌日。
茶会での振る舞いに緊張するセレナを、貴族たちは好奇心と警戒をないまぜにした視線で見つめた。
だが――
「このハーブティーは、聖花イリスが香りますね。眠れぬ夜に母が淹れてくれたことを思い出します」
優しく語るその言葉に、婦人たちの空気が和らぐ。
「……かわいらしいお方ね」
「真心を感じるわ」
セレナの誠実さと穏やかな芯の強さが、徐々に宮廷の空気を変えていった。
そして――その夜、セレナが舞踏会に同席した際。
アグレイスは全出席者の前で、静かに宣言した。
「そなたたちに、改めて伝えておこう。――この者が、我が番妃・セレナである」
その言葉に、場内がどよめく。
「この者は、誰の血筋でも、宮廷の意向でもなく――我が意志で選んだ、ただ一人の伴侶だ」
セレナの手を取る彼の姿は、まさに王の誓いそのものだった。
その視線を受けて、セレナはそっと頷く。
「……私は、アグレイスさまの番妃として、ここに在ります」
静かな声が、響いた。
その瞳には、もう怯えはなかった。
夜の王城。
「花嫁承認の儀」を翌日に控えたセレナは、自室の窓辺に立っていた。
白銀の月光が、床にやさしく注がれている。
着慣れぬ礼装の稽古も、言葉の練習も、ひとまずは終えた。
けれど――胸の中の鼓動だけは、どうしても静まってはくれなかった。



