そんなある夜。
勉強机に突っ伏したまま眠っていたセレナを、そっと抱き上げる腕があった。
「……ん……?」
目を開けると、そこにはアグレイスがいた。
その手はあたたかく、抱き上げられていることすら不思議に感じるほど優しかった。
「こんな夜更けまで、がんばっていたのか?」
「……はい。明日、貴族婦人との茶会があるので……失敗できなくて……」
アグレイスは微笑み、セレナの頬をそっとなぞった。
「そなたの努力は、もう誰にも測れぬほどだ。……なにより、わたしが知っている」
静かに抱きしめられ、セレナの胸にまた新たな光が灯った。
「アグレイスさま……」
「そなたは、ただそなたのままでいい。無理に宮廷に染まる必要などない。だが――この国の未来をともに担う者として、胸を張れるようになること。それだけが、わたしの願いだ」
その声が、静かな誓いのように、部屋に沁みていく。



