指先が、セレナの頬をそっと撫でた。
「そのすべてを乗り越える理由があるとしたら、それは……そなたが、ここにいるからだ」
言葉の意味を理解するには、セレナは少し時間が必要だった。
けれど、その声の響き、目の深さ、触れた指の温度――そのすべてが、彼の想いを伝えていた。
アグレイスは彼女の手を取り、指先にやさしく口づける。
「今は、まだ言葉にするには早いかもしれない。だが、わたしは――そなたと、生きたい」
その言葉に、胸がいっぱいになって、セレナは思わず目を伏せた。
「私も……。私も、あなたと一緒に生きたいです」
小さく、それでも確かな告白だった。
ふたりの手は、しっかりと結ばれていた。
その夜、星はただ静かに、やさしく降っていた。



