「……このまま、少しだけこうしていてもいいですか?」
「もちろんだ。永遠にでも」
静かな抱擁。
鼓動が互いの耳に、淡く重なる。
「アグレイス」
「なんだ、セレナ」
「私、まだ恋がどんなものか、ちゃんとわかってないの。でも……」
彼女はそっと顔を上げ、まっすぐ彼を見た。
「あなたといると、心がふわってなるの。優しくて、あったかくて……」
「それでいい。そなたがそう感じることが、“はじまり”なのだから」
その言葉に、セレナはほっと微笑んだ。
彼の手が頬を包み、そっと唇が触れた。
それは、祝福のようなキスだった。
ゆっくりと、深く、ふたりの鼓動がひとつになっていく。
夜が更け、星が瞬く。
セレナはアグレイスの胸に寄り添ったまま、うとうととまどろむ。
「あなたがいてくれるなら、私……きっと、もっと強くなれる」
「わたしもだ。そなたがいてくれるから、わたしは神である前に、ひとりの“男”でいられる」
やさしい、静かな時間。
これからの未来に、ほんのりと温かな灯がともったようだった。



