夜。
セレナは自室の小窓から、星のない空を見上げていた。
神の器とは何なのか。なぜ、今になって呼び戻されるのか。
わからないことばかりだったが、彼女は胸の奥で、何かが変わり始めているのを感じていた。
「……私が、選ばれた? 何も、できない私が……?」
民を思う気持ちだけでは、きっと何も変えられない。
けれどそれでも、守りたいと思った。
この小さな世界と、そこに息づく優しさを。
「……行くのですね?」
背後からの声に振り返ると、修道院長が静かに立っていた。
歳を重ねた顔に、穏やかな慈しみと、わずかな寂しさが浮かんでいた。



