「……私は、これまで誰かに必要とされることなんて、ないと思ってたんです」
セレナはぽつりとこぼす。
姉との格差、王家の中での疎外感。
愛されないことが“当たり前”だと思っていたあの日々。
「でも今は、少しだけ……変わった気がします。あなたが、私を信じてくれるから」
その声には、かすかな震えと、芽吹くような希望が混ざっていた。
アグレイスはそっと、彼女の手を包み込む。
「わたしが望んだのは、誰より強く、誰より優しい魂。そなたはそのすべてを持っていた」
「……アグレイス」
「これから先も、そなたが望む限り、わたしはその隣にいよう。番とは、そういうものだ」
ふたりの間に、言葉よりもあたたかな沈黙が降りる。
夜風がカーテンを揺らし、遠く鐘の音が響いた。
セレナはそっと立ち上がり、彼の隣にすとんと腰を下ろした。
肩が触れ合う距離。体温が伝わる静かな空気。
「……あなたの隣、心が落ち着くんです。不思議なくらい」
「それは、魂が寄り添っているからだ」
アグレイスは、セレナの髪を指先で軽く梳いた。
その仕草があまりに丁寧で、胸がきゅうと締めつけられる。
セレナは意を決して、彼に身体を預けた。
頬を彼の胸にあずけ、瞳を閉じる。



