蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜




 アグレイスは馬車の窓から外を見やり、彼女の声が届くように囁く。


「見ろ、そなたの歩みは人々の希望になる」

「……そうだといいな」


 彼女は手を振り、民に向けてゆっくりと微笑んだ。その瞳には確かな覚悟が浮かんでいた。



 王宮内、大広間。
 そこでは、“神獣の番”としての宣誓式が執り行われる予定だった。

 長い廊下を進むセレナとアグレイス。
 章ごとに用意された席には、王太子や高官たちが控えている。

 途中、幼い子どもが目を輝かせて駆け寄ってきた。


「セレナ様!お帰りなさい!ずっと会いたかったです!」


 その無垢で素直な声に、セレナの胸が熱くなる。
 彼女は膝を折って子どもの目線に立ち、にこやかに応える。


「ありがとう。あなたも元気そうで良かった」


 アグレイスはそのやりとりを微笑んで見守っていた。



 大広間では、神官長オルド師が宣誓台に立ち、ゆっくりと声を発した。


「神獣アグレイスの番として、この国と民を護り、愛することを誓いますか?」


 セレナは深く息を吸い、静かに答えた。


「はい。私、セレナ=ヴィアルは、この身をもって人々を守り、希望となることを誓います」


 その言葉に会場が静寂に包まれた。
 そして、アグレイスが隣で肯き、同じ言葉を繰り返した。


「誓います」



 宣誓の後、民たちの拍手が響き渡る。
 子どもも大人も、目に涙を浮かべながら彼女を見つめている。

 セレナは胸がいっぱいになり、言葉を紡いだ。


「私は、民を愛しています――ずっとそう思ってきました。
 民と共にあることは、誰よりも強く、誰よりも幸せなことだと──だから」


 力強く、でも柔らかく、彼女は続ける。


「これからも、ずっと平和と優しさを紡いでいく存在でありたい。
 アグレイスさまと共に──皆様と共に──この国の未来を信じて、歩んでいきます」
 

 その宣誓は、言葉以上の絆を示していた。
 セレナは王女としてだけでなく、心で民と繋がる“番”になった。