「アグレイス……こわくは、ないです。今だけは……私も、あなたに近づきたい」
そう呟いた瞬間、彼の手がゆっくりと頬を撫でた。
「そなたが望むなら、わたしも応える」
ふと、唇が触れ合う。
とてもやさしく、温度を確かめるように。
セレナの心は、ふわりと浮かぶように揺れた。
それは、夢のように甘く、息が溶け合うような口づけだった。
唇が離れても、体の奥がぽうっと熱を帯びていた。
ふたりは、そのまま寝台に身を横たえた。
肌と肌が触れ合うことは、まだほんのわずか。
けれど、心はそれ以上に近く――優しく包み合っていた。
やわらかな髪を梳かすような指先。
そっと額に触れるくちづけ。
そうして交わす、静かな囁き。
「……わたしが望むのは、そなたの微笑み。それだけで、この身を賭けるに値する」
「そんな……そんなふうに言われたら、私、もう……」
言葉は涙に変わる。
でもそれは、幸福の涙だった。



