「セレナ様は、やはり王女様ですね。こんなにも花を慈しまれるなんて」
「……私は、ただ、花が好きなだけです。花は、何も求めないから」
その言葉に、ナリーは少し寂しげに微笑んだ。
セレナが人を信じながらも、どこか一線を引いて接していることを、彼女はずっと前から知っていた。
午後になり、空がわずかに曇り始めたころ。
だが、修道院に一台の馬車が到着した。
「王都からの使者です」
修道院長が硬い表情で告げたとき、セレナの胸に小さなざわめきが走った。
王都――かつて、自分が“第二王女”だったころの世界。
思い出したくもない、冷たい石造りの城。姉の嘲笑、母妃の無関心。
「セレナ=ヴィアル様に、王よりの命があります」
差し出された文書には、金の封蝋が押されていた。
そこには、こう記されていた。
――神殿より啓示あり。神の器としての兆し、これを確認せよ。
「……神の、器……?」
ぽつりと呟いた声が、風に流れていった。



