月が空をのぼり、夜の帳が深まっていく。
しばらく無言のまま、セレナはアグレイスの隣に座っていた。
ただ、静かに、寄り添うだけ。
心地よい沈黙。
触れそうで、触れない距離。
けれど、ほんの一瞬――
セレナの手が、アグレイスの指に、そっと重なった。
「……こうしていると、安心します」
「わたしもだ。……そなたが傍にいると、静けさが戻る」
「……じゃあ、もう少しだけ……このままでいてもいいですか?」
「ああ、永遠にでも」
その言葉に、思わず笑みがこぼれる。
でもその笑顔の奥には、確かな“恋の兆し”が宿っていた。
その晩、セレナは眠る前にふと思った。
(好きって、こういう気持ちのことなのかな)
まだ確信には至らない。けれど、確かなことがひとつ。
――この人のそばにいたい。
それだけは、どうしても譲れなかった。



