「……これは、自然の力を歪めてる。まるで精霊の結界そのものが、内部から壊されていくような……」
セレナの瞳が、淡く光を宿す。
彼女が視たのは、北方の封域に広がる暗く濁った気配。
魔族の軍が動いてはいたが、その意図は――何かに突き動かされているようにすら感じられた。
そのとき、後方からアグレイスが駆けつける。
「セレナ、大丈夫か」
「ええ。でも……これは“単なる戦”じゃない。
誰かが、何かを意図的に――封印を解こうとしている。もしくは……導こうとしている」
アグレイスの眉がわずかに動く。
「“王都南の封印”と同じ兆候か?」
「似てる。でも、もっと古い、もっと原初的な“混沌”の気配……」
ふと、精霊院の長エリセが低くつぶやいた。
「北の大封域――あれは、かつて人と魔が契約を交わした場所。
その奥には、失われた“原初の神性”の痕跡があるとされてきた。だが、記録はどれも意図的に隠蔽されている」
「それを動かそうとしている者がいる……?」
アグレイスは拳を握る。
(国の内側が変わり始めた今、外側からの揺さぶり……)
まるで、王国の再生を阻むかのように、過去の呪縛が牙を剥いていた。
セレナは、強く唇を結ぶ。



