「……まさか、本当に“黎明の境界”の封印に触れたのか?」
アグレイスが頷いた。
「封印は、我々王家と妃の意思によって解除され、再構築された。
そしてその中心には、セレナがいた」
ルドルフは深く息を吐き、席に戻る。
彼のような魔術の最高権威が異議を唱えないことが、この会場に波紋のような影響を与えた。
だが――次に立ち上がったのは、王国軍の将軍グレイバーだった。
「……話はわかった。だが一つだけ問いたい。
その“未来”とやらに、我々の安全は本当に保証されるのか?
王家の権威が変わるというのなら、それは国家の揺らぎを意味する」
重く、実直な問いだった。
セレナは真っすぐに将軍を見つめる。
「私たちは、“恐れられる王国”から、“信頼される王国”へと変えたい。
そのために必要なのは、過去の力ではなく、“対話”と“共存”です。
魔族との和平交渉も、精霊との協定も――すべて、この国が選び取るべき未来の一部です」
将軍は少しの間、彼女を見つめたあと、口元をわずかに緩める。
「……ならば、その覚悟、しかと見届けよう。セレナ殿」
緊張が少しだけ緩んだ。
そして、そのわずかな空気の変化を、会場中が感じ取っていた。
重く冷たい空気が、少しずつ和らぎはじめていた。
アグレイスは、壇上から一歩下り、セレナの隣に立った。
その手はしっかりと彼女の手を包み込み、二人の間にはもはや隠すべきものなどなかった。



