「分かった。だが、君は一人では行かせない。俺も同行する。すべてを知り、すべてを選ぶために」
セレナはその手をしっかりと握る。
こうして、ふたりは――運命の中心へと歩み始める。
王都を離れる夜、空は重く沈み、星々は雲の奥に隠れていた。
アグレイスとセレナは、限られた側近とともに、馬車ではなく馬を使って密かに南へ向かっていた。
彼らが目指すのは、王国の南端、深き森を越えた先にあるという――黎明の境界(れいめいのきょうかい)。
それは、古の時代より世界を護るために築かれた禁域であり、いくつもの封印が交差する神聖な地だった。
アグレイスは馬を並走させながら、セレナの横顔をちらりと見る。
「怖くはないか?」
問いかけは穏やかだったが、その奥には深い心配と愛しさが込められていた。
セレナは小さく息を吐いて、微笑む。
「怖いよ。すごく。でも、それ以上に……知りたいの。
私が選ばれた理由と、この国に与えられた運命を」
アグレイスは無言で頷いたあと、真剣な瞳で前を見据えた。
(彼女は変わった。かつて、運命に怯えていた少女が……今、自らの足でそれを見極めようとしている)
夜明け前、彼らは森の入口に到着した。
「ここから先は、地図にも記されていない。足を踏み入れる者は限られている。……精霊たちの力を借りねば進めない」
そう告げたのは、随行していたロズベルド。彼は腰から小さな水晶笛を取り出すと、そっと吹いた。
その音色は風に溶け、空気を震わせ、そして――ザァ……という葉のざわめきとともに、森の木々が道を拓いた。



