蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜




 翌日、王宮の大広間に貴族たちが集められた。

 セレナの扉の継承は、一部の高位魔導士や古の血統者たちにはすでに知らされており、それが何を意味するのか、ざわめきが広がっていた。


 「なぜ、あの娘を選ばれたのですか」

 「伝統を破るご決断が、王国に混乱を招くのでは?」

 「“選ばれし者”など、神話にすぎぬ。王族の血統を重んじるべきでは?」


 強硬派の貴族が声を上げるなか、セレナはまっすぐ立ち、静かに言葉を発した。


 「私には、確かに血統も家柄もありません。でも、私には――この国の未来を守りたいという願いがあります」


 その声は震えていなかった。
 胸の奥で育ててきた“想い”が、いま言葉となって、世界に放たれる。


 「扉の継承を受けたのは偶然ではありません。あの力は、“過去を拒み、今を選ぶ者”にだけ授けられるもの。
 私は、未来を信じることを選びました。……この国と、あなた方と、そしてアグレイス様を」


 沈黙が広がる。誰もすぐには言葉を返せなかった。

 そのとき、アグレイスが一歩前に出る。


 「私は、セレナを“番”としてではなく、セレナだから妃として迎える。血ではなく、覚悟と想いで選んだ。
 そしてこの国を、古き枠組みではなく、新たな絆で導いていく。誰もが、自らの想いで未来を選べる国に」


 彼の宣言は、まるで“古い王国”への決別宣言だった。

 ざわめきと沈黙のなかで、ひとり、老齢の賢臣が立ち上がる。


 「……殿下よ。かつての王も、同じような炎を持っていた。だが、その志は時代に飲まれた。
 しかし、今のあなたたちには、その“時代を動かす力”があるように思える。ならば、信じてみよう――新しい時代を」


 ひとつ、ふたつと、賛同の拍手が起こり、やがて静かな肯定の波が広がっていった。

 その夜。
 王宮の塔の最上階、ふたりだけの静かな部屋。

 セレナは、星明かりを浴びながら窓辺に立っていた。


 「……怖くなかったと言えば、嘘になる。でも今は……やっと、私自身の道を歩き出せた気がする」


 アグレイスがそっと彼女の肩に寄り添い、囁く。


 「君の選んだ道は、正しかった。過去も、血筋も、誰かの期待も関係ない。君が“ここにいる”ことが、何よりの証だ」


 セレナは彼の胸に身を預け、小さく頷いた。