一方、アグレイスもまた、別の幻に立たされていた。
目の前には、過去の“戦場”が広がっていた。彼がまだ王太子として、国のために剣を振るい、誰もが彼の決断を恐れていた時代。
無数の剣と血。そして――倒れた、友。
「……なぜ、あのとき……」
彼は膝をつく。自らの非情さを誇りと信じ、感情を殺してきたあの日々。その決断が、誰かの未来を断ってきた。
(あれが正しかったのか? それとも、ただ……怖かっただけなのか)
その問いに答えるように、もう一人の自分が立っていた。感情を持たず、ただ効率と勝利を求める冷酷な自分。
「情に流されることが、弱さだ。そんなもので世界を守れると思うな」
だがアグレイスは、静かに剣を下ろした。
「弱くても、迷っても……俺は、守りたいものを守る。セレナを――人を信じる力を、今の俺は選ぶ」
その瞬間、鏡のような空間が崩れ、優しい光が彼を包んだ。
再びふたりは、元の広間へと戻っていた。
空間には静寂が満ち、あの“声”が語りかける。



