「……風が、気持ちいいですね」
セレナがぽつりと呟くと、隣で静かに座っていたアグレイスが首を傾ける。
「この世界の空気は、そなたの心に似ている。柔らかく、澄んでいる」
「……ふふ、そんなの初めて言われました。お上手なんですね?」
「上手ではない。ただ、そう感じる」
真顔でそう言うものだから、セレナは思わずくすりと笑ってしまった。
まっすぐすぎて、どこか不器用で、でも傷つけることは絶対にない――
アグレイスの言葉は、彼女の心の柔らかい部分にいつも真っ直ぐ届いた。
日が暮れても、アグレイスはそのまま彼女の傍にいた。
彼の姿は相変わらず人の姿で、長い銀の髪が夜風に揺れている。
その金の瞳にじっと見つめられると、セレナはなぜだかまともに見返せなくなった。
「……あの、近くないですか?」
「そなたが寒いかと思った。違ったか?」
「ち、違いますけど……その……男の人が近くにいるのって、慣れていなくて」
顔を赤らめながら言うと、アグレイスはきょとんとした顔をした。
「わたしは、男なのか?」
「……見た目は、十分に」
そのあと、小さく「うわぁ……なに言ってるの私……」と口の中で呟いてしまった。
どこかおかしくて、そして甘く、くすぐったいような空気が二人の間を流れていた。



