「セレナ!」
アグレイスが、倒れかけた彼女を抱きとめる。
「大丈夫……少し、意識が遠くなっただけ。でも――全部、見たの。私の中にある、血の記憶」
彼女は息を整えながら、言葉を紡いだ。
「この“扉”は、わたしの先祖が造ったもの。災厄の力を封じるため、そして……必要なら、“やり直す”ために」
アグレイスが目を細める。
「“やり直す”?……世界を?」
「ええ。世界の一部を“書き換える”ための力――それがこの扉の正体。
でも、そんなことをすれば、今ある全てが壊れる」
セレナはアグレイスを見つめた。その瞳にはもう、ためらいはなかった。
「だから、わたしは選ぶ。力じゃなくて、“あなたと歩む未来”を」
その言葉に、アグレイスの手が彼女の頬に触れる。
「なら、俺は――その未来を守る剣になる」
強く、揺るぎのない声だった。
だがその瞬間、扉の奥から再び声が響いた。
『継承の儀は、まだ終わっていない。鍵を得し者よ、試練を受け入れよ――』
扉が音もなく、開き始めた。
その奥に広がっていたのは、漆黒の空間と――光る階段。
まるで、どこか別の世界へ通じる道。
ふたりは互いに視線を交わし、無言のまま歩みを進めた。
これは、過去と未来を繋ぐ旅の始まり。
そして、二人にとっての真実の試練が待つ場所だった――。



