「ついに開いたな、銀月の血。あとは……“再起動”の時を待つだけだ」
影は嗤った。まるで、千年の時さえ待ち焦がれていたかのように。
地下礼拝堂――そこは、王宮の最深部にあり、王族以外の立ち入りは固く禁じられた場所。
燭台の炎がほんのりと空間を照らし、湿った石の壁にその光が静かに揺れていた。
セレナとアグレイスが扉を開けた瞬間、冷たい空気が肌を刺すように流れ込んだ。
そして、その空気には、確かに“古い力”の匂いが混じっていた。
「……ここに、何が眠っているの?」
セレナの声はかすかに震えていたが、それでも歩みを止めなかった。
アグレイスがそっと彼女の手を取る。彼の手のぬくもりが、胸の奥の不安を和らげてくれる。
やがて二人は、礼拝堂の中心――巨大な黒曜石の円盤に辿り着いた。
そこには、見覚えのない文様と、セレナが古書で見たのと同じ“銀の紋章”が刻まれていた。
「これが……“扉”?」
セレナが問いかけると同時に、石盤がわずかに震えた。
『来タレ、継承者……』
誰の声とも知れぬ“声”が、直接頭の中に響く。
セレナの体がふっと引かれるように前へ出た。足が勝手に動いている――。
「セレナ! 離れるんだ!」
アグレイスが声を上げるが、セレナの瞳はすでに何かに捕らえられていた。
黒曜石の中央に浮かび上がる、一本の“銀の糸”のような光。その先に、彼女の血と共鳴する何かがある。
(わたし、知ってる……この扉は、“過去”に繋がってる)
その直感は、彼女自身の記憶ではなく、血に刻まれた“何か”が囁く真実だった。
ふと視界が反転する。気がつくと彼女は、礼拝堂の記憶の中に立っていた。



